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大阪地方裁判所 昭和59年(わ)3046号 判決

主文

一  被告人朴清惠及び被告人井上圭弘を各懲役六月に処する。

一  被告人朴及び同井上に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれその刑の執行を猶予する。

一  訴訟費用は、被告人朴及び同井上の連帯負担とする。

一  被告人エス・イー・エー・プランニング株式会社は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人木原清繁こと朴清惠は、海外芸能人の招へい、芸能人の職場斡旋等を目的とする資本金三〇〇万円のエス・イー・エー・プランニング株式会社の代表取締役であり、被告人井上圭弘は、同社の取締役であるが、被告人朴及び同井上は共謀のうえ、フィリピン女性を芸能人と仮装して入国させ、飲食店に同女らをホステスとして継続供給しようと企て、法定の除外事由がないのに、別紙犯罪一覧表記載のとおり、昭和五九年三月一日から同年六月一九日までの間、前後九〇回にわたり、大阪市北区曽根崎新地一丁目五番二九号所在の八千代レジャービル六階ラウンジ「アルベージュ」ほか二店に、店名ギルダことギルダ・アール・バリエス等延五一四名のフィリピン女性をホステスとして継続供給して各店内において使用させ、もつて労働者供給事業を行つたものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人朴清惠及び同井上圭弘の判示所為は、刑法六〇条、職業安定法六四条四号、四四条に該当し、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人朴及び同井上を各懲役六月に処し、情状により刑法二五条一項によりこの裁判確定の日から三年間それぞれその刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人朴及び同井上の連帯負担とする。

(被告人エス・イー・エー・プランニング株式会社を無罪とした理由)

被告人エス・イー・エー・プランニング株式会社に対する公訴事実の要旨は、

「被告人エス・イー・エー・プランニング株式会社は、大阪市浪速区敷津西一丁目四番一〇号に本店を置き、海外芸能人の招へい業務等を営むもの、被告人木原清繁こと朴清惠は同社代表取締役、被告人井上圭弘は同社取締役としていずれも同社の業務を掌理していたものであるが、被告人朴、同井上の両名は、共謀の上、被告人エス・イー・エー・プランニング株式会社の業務に関し、フィリピン女性を芸能人と称して入国させ、大阪市住之江区南港中三丁目三番公団住宅しらなみ団地三一棟八〇五号室等三室に居住させて、法定の除外事由がないのに、別紙犯罪一覧表記載のとおり、昭和五九年三月一日から同年六月一九日までの間、前後九〇回に亘り、大阪市北区曽根崎新地一丁目五番二九号八千代レジャービル六階ラウンジ「アルベージュ」ほか二店に、店名ギルタことギルダ・R・バリエス等延五一四名のフィリピン女性をホステスとして継続供給して各店内において使用させ、もつて労働者供給事業を行つたものである。」

というものである。

職業安定法六四条は、その四号において、四四条の規定に違反した者は、所定の刑罰に処する旨を定めている。同法四四条は、「何人も……労働者供給事業を行つてはならない。」と規定する。同条は、一般的に労働者供給事業を禁止したものであり、右禁止の名宛人は、特定人に限定されず、自然人あるいは団体を問わずいずれに対しても向けられているものと解するのが相当である(同法施行規則四条三項参照)。してみると、同法六四条四号に定める罪(以下、本条という。)は、自然人のみならず法人についても成立するかが問題となる。

周知の如く、法人の犯罪能力については、積極、消極の両説の対立が存する。

消極説の立場からは、本条により法人を処罰することは許されないのであるから、法人を処罰するためには、その旨の特別規定(通例は、いわゆる両罰規定がこれにあたる。)が必要不可欠である。本法においては、右の特別規定は存しないので、法人については、本法に定める犯罪は成立しないものと解する外はない。

これに対し、積極説によれば、もともといわゆる両罰規定は、単なる注意的規定にすぎないのであるから、法人も本条により処罰されうると解する余地が存する(一般的には法人処罰の必要性の存する分野については、いわゆる両罰規定が設けられており、この点が特に問題となることは少ない。)。しかしながら、本法はその六七条一項において「この法律の違反行為をした者が、法人……の業務について、当該法人……のために行為をした代理人又は被用者である場合においては、行為者を罰する外、当該法人の代表者……が普通の注意を払えば、その違反行為を知ることができるべきときは、その法人の代表者……に対しても各本条の罰金刑を科する。」と定めており、法人については、法人自体ではなく、法人の代表者を処罰する旨を明定している。同法は、その六七条においていわゆる両罰規定を定めるにあたり、法人の代表者のみを処罰すると規定し、特に法人を除外しているのであるから、その反対解釈として法人は処罰しないものと定めたものと解するのが相当である。してみると、積極説の立場においても、本法の解釈上は、法人は処罰されないものと解すべきこととなる。

従つて、いずれの立場をとるとしても被告人エス・イー・エー・プランニング株式会社に対する被告事件については、罪とならないことは明らかであるので、刑事訴訟法三三六条により同被告人に対し、無罪の言渡をすることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(金山薫)

別紙 犯罪一覧表〈省略〉

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